資料3

[レポート] 文化人類学 08/01/11

日本のマンガ・アニメーションは国境を越えるか

0.はじめに
ここ10年で海外における日本のマンガ・アニメーションの普及率は格段に上昇している。
しかしこの現象は、数字上の部分のみを把握していても内実は中々見えてこない。海外に日本のマンガ・アニメーションはどのように受け入れられているのか。そもそも本当に受け入れられているのか。様々な疑問が残る。
そこで今回はあえて身近ではないが、日本のマンガ・アニメーションという文化(ただのカルチャーとしてではなく日本における独特の慣習や観念として捉える)が海外ににどのような影響を及ぼしているのかを私の知る限りの資料・研究を用いて断片的ではあるが考えてみたいと思う。

1.ポケモンの絶大な人気
「POKEMON」と言えば、今さらではあるが世界的に有名なヒット商品である。そしてその中でも特にアメリカは当時絶大な人気を博した。アメリカで発売されたゲームボーイソフト「ポケモン赤 青」は99年に800万本。またその年公開された劇場映画では公開5日で興行収55億円を記録している。
それでは肝心の、なぜそこまで絶大な人気を得られたのかというところだが、この問題はポケモンという商品がいかに優れているかということを語るだけでは問題は解決しない。ここに文化人類学的なアメリカの文化との影響がみえてくるのである。
当時、まだアメリカではアニメは子どものものであるという考えが強く残っていた。その考え(文化)に反発・対抗する格好の概念としてちょうど参入してきた日本のマンガ・アニメーションカルチャー(ここでは文化人類学の定義ではない「文化」を「カルチャー」と明記することにする。)が受け入れられたのである。このことを踏まえると、アメリカでのポケモンをはじめとした日本のマンガ・アニメーションブームは我々が見ている自国での純粋なブームとは若干ニュアンスが違う側面を持つ。これは、日本のオタクが批判的な対象になりがちなことに対し、アメリカでは堂々とオタクと公言しているオタクが多いことにも繋がっているのかもしれない。(最近では日本も状況が変わってきたがまだアメリカほど屈託なくオタクと公言できる状況ではない。)
こういった現象はヨーロッパや東アジアでも同様でハリウッドやディズニーなど米国商品に対抗するカウンターカルチャーとして日本のマンガ・アニメーションカルチャーが普及している側面は見逃せない。


2.中国のマンガ描き方入門
最初に明記した通り、我々が普段何気なく読んでいるマンガは紛れも無くある特定の集団や地域だけつまり日本で共有されている慣習や観念である。それは海外の人たちがどのようにマンガを受け入れるかを調査していくことで客観化され、改めて日本のマンガ文化が浮き彫りになってくる。
それを試みる中で、中国のマンガの描き方入門の本が非常に面白い。[図1]は日本の学園物マンガの中に出てくる登場人物たちを説明したものである。服装や髪型、靴に至るまでこと細かに違いが書かれており、妙に滑稽な違和感がある。これを見てもらうと、「マンガは国境を越えた」なんていう言説に対して素直に肯定できない。やはり文化はそう簡単に国境を越えないし、仮に超えたとしても本当に同じように受け入れられるのかは疑問である。
アニメでも、当時『うる星やつら』で劇中の中に出てくる「こたつ」が海外では不思議に思われ、後に解説サイトができるなど日本の文化がアニメーションの浸透のネックになっているという現象もある。

3.アメリカにおけるマンガの成立と議論
また、他国から受け入れた文化を自国で発信する時にもかなりの捻じれが生じる。最近アメリカではマンガの成立を巡って「マンガは日本人が描かないとマンガにならないのか」という議論がマジメに行われている[図2]。それも我々からすると非常に滑稽な捻じれに映ってしまうが、昔日本でもジャズやロックは日本人にはできないのではないかという議論をマジメにしていたことからも特別この現象が特異なことではないはずで、普遍的な軋轢なのかもしれない。

4.おわりに
やはり、表面上だけで「今、日本のマンガ・アニメは海外で人気である」というような言説を鵜呑みにしては危うい部分が多い。それは文化を受け入れる時や発信する時に軋轢が生じる場合や、そもそも文化がイデオロギーとして受け入れられる場合もあるということである。それに対して良い・悪いの価値判断は出来ないが、そもそも文化とはそういうものだといういうことを捉えておくことは重要なことかも知れない。

参考文献
堀淵 清治 2006 『萌えるアメリカ 米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか』 日経BP
夏目房之介 2007 『花園大学後期集中講義レジュメ』
パトリック・マシアス/町山 智浩訳 2006 『オタク・イン・USA 愛と誤解のAnime輸入史』 太田出版
「『ポケモン』ゲーム、世界販売数1億5000万本を達成へ」
http://hotwired.goo.ne.jp/news/business/story/20051005105.html
ポケモン金・銀」今期中に800万本見込む米国では2作目劇場アニメ版をWBで夏に公開」 http://plusd.itmedia.co.jp/games/gsnews/9912/01/news03.html