シートン 第1章―旅するナチュラリスト

シートン 第1章―旅するナチュラリスト (1)
谷口 ジロー
双葉社 (2005/03/28)

僕は絵が上手い漫画家は好きではない。というより、構成力や演出力が上手ければ、絵なんて下手でも全く気にならない。だから訂正するならば「僕は絵が上手いだけの漫画家は好きではない」、ということになる。
しかし、あながち最初の定義でも間違ってない気がする時がよくあるのだ。これは僕の偏見かもしれないが、絵が上手い漫画家は構成力・演出力(=総じて漫画文法力と呼ぶ事にする)が下手な人が多い。どうしてなのかはよく分からないがたぶん、絵が上手い人はなまじっか人より絵が上手い為に絵の方ばかりに執着するというのもあるし、漫画文法力というのは、記号などを使っていかに読者に分かりやすく読ませるかという力でもあるので、この漫画文法力の鍛錬を邪道と思って嫌っているような気がする。だから、絵が上手い人に漫画文法力がない人が多いんじゃないだろうか。
しかし、この僕の定説でもあった偏見を見事に打ち破ってくれた作品がある。それが今回紹介する谷口ジローの『シートン―旅するナチュラリスト』なのである。
内容はあまりにも原作が有名なので、たとえ見ていない人でも世界観はつかめると思うので省略するが、はっきり言ってめちゃめちゃ面白い。
僕は恥ずかしながら、この作品で初めて谷口ジロー作品を読んだのだが、それはこれまた例のごとく偏見で面白くないとずっと思っていた。そういう理由もあって、初めは古いマンガっぽいなとか絵が上手すぎて入り込めないなとか苦い顔をしながら読んでいたのだが、そんな気持ちはものの数分でどこかにいってしまい、物語にどっぷり浸かりながらあれよあれよと読了してしまったのだった。
驚くべき緻密な背景にも関わらず、それをあくまで背景として使い、決して押し付けてくる感じはしない。そう、この作者はあくまでも漫画を見て欲しいのだ。60歳をまじかとした老体とは思えない勢いと長年培われた漫画力とが体感できる谷口ジロー、渾身の一作である。
B+α